【コラム】移民と「もうひとつのイギリス」

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仲井成志(教養学部4年)

移民社会イギリス

イギリスには移民がたくさんいる。日本人がパッと思い浮かべるイギリス人のイメージといえば、なんとなくモーニングに身を包んだ上背のある白人男性―いわゆる英国紳士―ではないだろうか。しかし、そんな妄想は時代遅れだし、ナイーブだ。実際に統計を眺めてみると、2017年、イギリスには外国生まれの人口が940万人。イギリス全体の人口が約6500万人であることを考えれば、単純計算で7人に1人が外国生まれ。どうだろう、想像以上に多いと感じたのではないか。

「もうひとつのイギリス」

筆者が留学していたのは、「ノースイースト(北東)」と呼ばれている地域にある大学で、経済的には国内で最も貧しいとされている。移民はどうかというと、外国生まれ人口の地域別比率でみて、北アイルランドを除いて最低の2%にとどまる。たしかに、現地では大学のキャンパスを出ると、あまり多様性を感じることはなかった。

一方で、ロンドンの比率は36%で、これは2位「サウスイースト(南東)」の13%を大きく引き離し、圧倒的な集中率だ・・・。そういえば、部活の遠征でロンドンを訪れたとき、世界を代表する大都市が抱える「ゆがみ」を実感したことがあった。

部活のメンバー5人で夜のロンドン郊外をふらふら歩いていた時だった。背後で女性の金切り声が聞こえ、思わず振り返ると、ビール瓶を片手に数人が大声で喧嘩をはじめていた。彼女らが早口でまくしたてているのは、明らかに英語ではない。私以外のメンバーは全員、イギリス生まれイギリス育ちだったのだが、そのうちの1人であるジャックが、少し口元をゆるめて、私にこうささやいた。

「ほら、これが君の知らないもうひとつのイギリスだよ(You see, this is the other side of Britain you don't know)」

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 ロンドンの曇り空の下には、「もうひとつのイギリス」がある=筆者撮影

「敵対的な環境」

ジャックが言う「もうひとつのイギリス」に対して、イギリス人がどう感じているのかというと、あまり心穏やかではないようだ。歴史的には戦後の労働力不足の解消のため、カリブ海諸国から大勢の移民を受け入れたものの、移民への差別が横行。1968年にはある国会議員が「血の河演説」でもって移民の増加に警鐘を鳴らしたほどだった。

今日はどうだろう。記憶に新しいのはブレグジットだ。EU離脱キャンペーンにおいて、議員や活動家は移民の脅威を強調することで、労働者の恐怖心をあおっていた。実際に「移民問題」が国民投票において大きなファクターとなった、とする調査結果も出ている。

ついでに言うと、2018年には、内務省(Home Office)が移民制限ターゲットを設けて、合法移民を半強制的に母国に帰らせる政策を行っていたことが判明し、「(移民に対する)敵対的な環境(hostile environment)」だとか「ウインドラッシュ・スキャンダル(戦後のカリブ海の移民がウインドラッシュ号に乗ってやってきたため、彼らをウインドラッシュ世代と呼ぶ)」という言葉が新聞紙上を賑わせた。最終的には内務大臣(Home Secretary)が辞任するほどのスキャンダルとなった。

となると、「血の河」のような優生学的な言説はもちろん消えていったものの、イギリスには未だに「敵対的な環境」が残存しているとみていいだろう。実際、メディアやSNSでは「移民が仕事を奪う」とか「移民が犯罪を起こしている」という言説をよく目にする。

ブレグジットを経て、「もうひとつのイギリス」はどうなってしまうのだろう。「敵対的な環境」がさらに勢いを増し、「もうひとつのイギリス」がさらに遠くに押しやられて、ついには「誰も気にしないイギリス」になってしまうのではないか、と心配している。