【留学】「人生立て直し留学」―苦労の末に見つけた「地図」
「『人生立て直し留学』でした」―昨年秋から約1年間、イギリスのエクセター大学に留学した金山紅香さん(教養学部4年)は筆者の取材に対して、こう切り出した。
2015年に現役で東京大学に入学、進学振り分けでは難関である「教養学部超域文化学科表象文化論コース」に進学するという、順風満帆にも見える金山さんの「人生」は、どのようなものだったのだろうか。そして、留学を機にいかにして人生を「立て直し」たのか。
エクセター大学のキャンパスは、英国式庭園さながらの美しさだ(金山さん提供)
将来への不安
留学前、日本社会に息苦しさを感じていた金山さん。日本の教育システムのもとでは、小学校入学から大学卒業まで、同年度生まれの子どもたちが一段ずつ、横並びで学年を重ねていくのが通例だ。その弊害だろうか、金山さんは高校生時代から、自分を周りの学生と比較してしまう癖が付いてしまった。「どうしても自己肯定感が持てなかった」と金山さん。その結果、「(周りに)置いていかれてしまうのではないかと、将来への不安を抱くようになった」。
東大に入学し、後期課程に進んでも、「先行きが見えない」という漠然とした焦りが消えることはなかった。後期教養学部では表象文化論を専攻したものの、幅広いテーマを扱う学問領域ということもあり、「興味が拡散して、(全体像が)何だか分からず五里霧中だった」という。
そんな状態で迎えた海外留学。卒業が1年遅れるため、小学校から着々と歩んできた「コース」からは外れるが、「日本以外の社会・文化を知ることで、かえって日本についての理解が深まるのでは」と期待しての渡航だった。
「比較」なんて
留学を振り返って、金山さんは「期待していた以上のものが得られた」と笑顔を見せた。異国の地で、「得意ではなかった」という英語を用いて生活しているうちに、少しずつ周りとの比較をやめるようになった。後天的に英語を勉強した自分とネイティブスピーカーとを比較をしたところで意味がなく、他の英語学習者にしても「色んな段階の人がいて、しかもそれぞれの人にそれぞれの条件がある」ことに気付かされたという。
「比較」をやめた金山さんは留学中、授業に加えてフォークダンスサークルや、現地の学生に日本語を教えるボランティアを行うなど、様々な活動に積極的に参加した。
「留学前、輝いて見えた優秀な人が言っていた『人と比べても意味ないよ』とか『良いか悪いかは自分の基準次第』という言葉には全然ピンとこなかったけど、留学が終わった今、自分がいま考えていることを言語化すると、それらのフレーズに集約される」。
フォークダンスサークルのイベントにて(金山さん提供)
踏み出せた「一歩」
1年間の留学を終えた今、成長を実感しているか尋ねたところ、金山さんは「留学中は目標が高く、それに次から次へとハードルが来るから実感はできなかったけど、(留学が)終わってから、モヤモヤと感じていた成長が確信に変わった」と語った。東大に留学してきた学生を案内するボランティアや、英語力が求められるインターンシップなど、留学前は敬遠していたであろう活動にも、意欲的に参加するようになった。英語を使うことに対する抵抗が薄れ、「色んなところに行ける『足』ができた」という。
先行きが見えず不安だったという人生にも、ある程度の指針を見出せるようになった。当然迷いはつきものだが、周囲との比較をやめて自分自身を見つめなおすことで「自分が何に迷っているのか、地図的に分かるようになった気がする」。
イースター休暇中、スウェーデンに旅行した時の一枚。「この旅行を経て心が結構整理された」と振り返る(金山さん提供)
留学に意味はあるか?
最後に「この留学に意味があったのかとよく聞かれるし、自問もする」と前置きしたうえで、金山さんは語気を強めてこう語った。「意味はあとから作るもの。留学後の自分次第で、その留学に意味を見出すことはできる」。
周りとの比較をしてばかりで、自分に自信が持てなかった留学前。それでも留学を経て「自分の足で立っている感覚がついた」という金山さんだからこそ、「自分次第」という言葉には重みがある。
「留学したところで、意味があるのだろうか」と考える高校生・大学生も多いだろう。しかし、留学中に何があるのか、そして何が人生を変えることになるのかは、誰にも分からない。金山さんが言うように、「意味はあとから作るもの」なのだ。