【留学】「日本から出よう」―アメリカで訪れた人生の転機

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 留学を経てどのような変化があったか、との質問に「基本的には、(日本から出て)アメリカかカナダに移民することにした」と語るのは、昨年秋から1年間、アメリカのワシントン大学に留学した教養学部4年の伊澤涼さんだ。留学前は「ゆるく公務員志望くらいだった」という伊澤さん。アメリカでの刺激的な生活を送るなかで、少しずつ、着実に、人生観が変化していった。

インタビュー・文 仲井成志(教養学部4年)

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シアトルのビル群に夕陽の光が降り注ぐ(伊澤さん提供)

 

日本とは異なる「人種」観

 留学を決めたのは、「日本ではあまり進んでいないが、アメリカは圧倒的に強い」という社会学、とくにジェンダー論を勉強するためだ。ジェンダー論に興味をもったのは、大学1年の冬に映画『ミルク』(2008年)を観たことがきっかけだったという。1970年代のアメリカで、ゲイであることを公表し当選した政治家の半生を描いたドキュメンタリー映画だ。「当時は学問的に研究してみたいとは思っていなかった」と断りつつも、「どうして日本とアメリカで、ゲイの描かれ方がこんなにも違うのだろうと思った」といい、「(今から思えば)後々まで自分に影響があったのかな」と振り返る。

 アメリカに渡ってフェミニズムを学び始めた伊澤さん。「想定外だった」と語るのは、「『フェミニズム』という授業の内容の9割が、人種についてだった」ことだ。たとえば、白人女性と黒人女性では抱える問題や、社会での扱われ方が大きく異なる。しかし移民が少ない日本では「人種が見えないものにされている」

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シアトルは「ずっと小雨が降っているような感じだった」という=ワシントン大学の図書館(伊澤さん提供)

 

性別で判断されない空間

  人種について意識させられたのは、教室の中だけではなかった。LGBTのコミュニティを運営する団体で1か月間インターンしたという伊澤さん。イベントの企画や運営・宣伝に携わるなかで足を運んだゲイバーで、「すごい空間」を目の当たりにした。

 「見た目からは、性別が何で、性的指向がどうなのかが分からない。誰もが究極的に『個人』に還元された空間だった」。しかし、性別や性的指向を意識する必要がなかった分、人種の違いが浮き彫りになって「自分がアジア系であることを強く意識させられた」と振り返る。もともと、ワシントン大学があるシアトルにはアジア系移民が多い。それだけに、ゲイバーという特殊な空間では、普段は意識することのなかった人種について考えさせられたという。

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伊澤さんが足を運んだゲイバーの壁面には“I know you’re queer, but what am I?”と書かれている(伊澤さん提供)

 

とにかく、日本から出たい

  留学前、就職については「ゆるく公務員くらいしか考えていなかった」という伊澤さん。しかし、人種が多様でLGBTなどのマイノリティにも寛容なシアトルで生活しているうちに、将来的にはアメリカかカナダに移り住むことを本気で考えるようになった。移民という選択肢は「留学前も少しは考えていた」というが、「自分に本当にできるのか、自分が本当にやりたいことなのかが分からなかった」。シアトルでは、ビジネスに打ち込む人や起業した学生が数多く、彼ら/彼女らと交流する中でも、その自由な雰囲気に「かなり刺激を受けた」という。そんな中で少しずつ、移住という大きなビジョンを描くようになった。

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メキシコ旅行の際に撮影(左から2人目が伊澤さん)=グアナファトにて(伊澤さん提供)

 

留学で「留年」、不利益?

  大きな目標の達成に向けて、伊澤さんは既に大きなステップを踏み出した。6月末に帰国してすぐに就職活動をはじめ、見事に外資系戦略コンサル会社に内定、「2023年くらいには日本を出て、それからはもう帰って来ないくらい(の気持ち)」と将来のビジョンを描く。

 最後に留学を考えている後輩へのメッセージをお願いすると、「歳を重ねてから海外に行っても、自分の殻に閉じこもりきりになる可能性がある。早いうちに行ってみるのがいい」と語った。さらに、留学によって、卒論や就職活動の関係で留年する学生が多いが、「留学して就活が1年遅れるからって、別にディスアドバンテージになるとは思わない」

 

―留学を機に、人生観が大きく変わった伊澤さん。留学先で何が起こるのか、そして自分がどう変わるのかは予測不能だ。しかしだからこそ、留学は狭い視野を拡げ、殻を破る大きなチャンスでもある。