【留学】幸せの「型」―気付かされた日本の異質さ

 

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「切羽詰まって生きなくてもいいんだ、と思った」―留学生活を振り返ってこう語るのは、昨年秋から1年間、オーストラリア国立大学(キャンベラ)で勉強した法学部4年の駒井恵さんだ。留学を機に、生まれてから約20年間過ごしてきた日本を飛び出し、当たり前だと思っていた日本での生活を初めて客観的に眺めることができた駒井さん。オーストラリアの人々の生き方に触れて浮き彫りになった、日本の異質さとは―

インタビュー・文 仲井成志(教養学部4年)

 

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緑に囲まれたオーストラリア国立大学のキャンパス(駒井さん提供)

 

行かなかったら、絶対に後悔する

 留学の動機を尋ねると、駒井さんは「話が長くなるかも」と笑った。きっかけは高校2年生のとき。「母から『留学してみない?』と聞かれた」と懐かしそうに振り返る。通っていた高校を退学し、海外の高校に留学するというプログラムの提案だった。「面白そうだな」とは思ったが、大好きなバレーボール部を離れるのが惜しく、日本にとどまる決心をした。「部活をやめるという選択は考えられなかった」とことわりつつも、「もし(留学に)行っていたら、(人生が)変わっていたかもな」と思うことがしばしばあった。そこで駒井さんは、こう心に決めた。「大学に入ったら、絶対に行こう」

 大学に入学してからの留学に対する気持ちの変化を、駒井さんは指で空になぞってくれた。固い決意のもと入学したものの、「(新しくできた友達と)離れたくないと思った時期があった」と振り返る。それでも、留学を経験した先輩から話を聞くうちに、入学当初の強い気持ちがよみがえってきたという。「行きたいという気持ちが少しでもある以上、行かなかったら絶対に後悔する」

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テルストラタワーにて、キャンベラの街並みをバックに=左から2番目が駒井さん(駒井さん提供)

 

「理論」と「実践」を学んで

 オーストラリアでは、日本を含むアジア太平洋の国際関係を学んだ。国際政治や平和のための外交に興味を抱いていた駒井さん。中学生のときに沖縄のひめゆりの塔を訪れ、戦争の悲惨さを痛感したのがきっかけだった。現地の授業は「(日本とは違い)歴史を深掘りしていく感じ」で、「かなり知識がついた」

 さらに課外活動として、キャンベラにある日本大使館インターンシッププログラムに参加した。リサーチペーパーを作成したり、日本やオーストラリアの外交官と懇談するなかで、外交の実践的部分についても「なるほどと思える気付きがあった」といい、「すごく貴重な体験だった」と振り返る。

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インターンシップ中には国会議事堂も訪れたという(駒井さん提供)

 

日本人の幸せの「型」

 駒井さんが留学中にもっとも強く感じたのが、日本人とオーストラリア人の生き方の違いだった。日本人は「中学から高校に進学し、浪人はできるだけせずに大学に入学、留年もできるだけせずに、横並びで就職する」という固定観念を抱いている、と指摘する。「何事もダブりなく、ストレートにこなすのが良いとされている」

 しかし留学早々、地域のバレーボールセッションに参加したときに、必ずしもそれが普通ではないことに気付かされた。高校卒業後2年間、すぐには大学に進学せずに、外国語の勉強をしながら学資を稼いでいるという男性の話を聞き、日本人との違いに驚いた。その男性以外にもギャップイヤー(高校と大学の「ギャップ」を使って自由に過ごす期間)を利用する学生は数多く、「(多くの日本人のように)切羽詰まって生きなくてもいいんだ、と思った」

 「(留学前は)意識しなかったが、日本ではこう生き方をしなければ『幸せ』とは言えないという『型』があると感じた」と振り返る駒井さん。それに対してオーストラリアは「とにかく自由だった」という。

 

なにごともプラスになる経験

 最後に、留学を考えている学生へのメッセージをお願いすると、「私は、迷ったけどやめて、あとから後悔した」と高校時代の自身の経験を引き合いに出し、こう続けた。「迷っているということは、行きたい気持ちがあるがあるはず。後から『行っておけば』と思うのは良いことではない」

 言語に自信がない、友達ができるか不安だと考える学生も多いだろう。しかし駒井さんは、そういった課題を解決する手段をも楽しみに変えられる、と指摘する。「たとえば英語が話せない、聞き取れないときは、どんどん話しかけるしかない」。日本ではあまりためにならないと感じるような雑談でも、海外では語学面での成長や異文化理解につながり、知らぬ間に自分の財産となる。

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帰国の際、見送りにきてくれた友人たちと=前列中央が駒井さん(駒井さん提供)

 

―駒井さんが言うように、「(留学しているときは)何をしてもいい経験になるし、何をしても自分にとってプラスになる」。日本の「型」から抜け出すためにも、留学という選択肢を考えてみてはどうだろうか。