【留学】「考える」ことを始めた日から―カナダでの「気付き」  

 

 

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 「自分の価値性を見つめなおすようになった」―留学生活をこう振り返るのは、カナダのブリティッシュコロンビア大学に1年間留学した、教養学部4年の藤田結さんだ。留学前は「自分は他の人たちと何も変わらないし、何も新しいものが生み出せない」と感じてしまっていたという藤田さん。異国の地で生活しているうちに、人生について深く、ゆっくりと考えるようになった。

インタビュー・文 仲井成志

 

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ブリティッシュコロンビア大学のキャンパスに国旗がはためく(藤田さん提供)

 

外国への憧れ

 「英語を頑張りたい、というモチベーションは中学生の頃からずっとあった」と振り返る藤田さん。英語に親しみをもつきっかけとなったのは、ドイツで生まれ育った2人の年下の従弟の存在だ。幼いころ、夏休みになると日本に遊びに来ていたという2人がドイツ語を話しているのを聞いて、大きな刺激を受けた。「自分が話せない言葉を話していることへの、憧れがあった」

 「英語が好きだった」という中学・高校時代。高校2年生のときには10日間の海外交流プログラムでアメリカのボストンを訪れる機会に恵まれた。現地の高校生との交流、さらにはハーバード大学マサチューセッツ工科大学の授業を見学していると「憧れが一段と強くなった」と同時に、しみじみと感じたことがあった。「日本では、外国人は珍しい存在だけど、アメリカには色んな人種の人がいて、外国にいるのに自分が『外国人』と見られるわけではない環境を、不思議に思った」

 

女の子なのに浪人?

  生まれ育った日本とは違う世界に触れて、海外への興味を抱いた藤田さん。大学に入ってから「学問的にもっと深めたいと思う分野に出会った」ことが、海外留学の決め手になった―「女性の権利」だ。このテーマに関心を抱いたきっかけは、高校卒業後の友人との会話だった。再受験に向けて予備校に通うことを決めた藤田さん。周りには志望校ではないものの進学を決意する友人が何人かいたといい、「(彼女らが言っていた)その理由が、『女の子だから、浪人しないほうが良い』ということだった」

 東大に入学してからも、女子学生の少なさに問題意識を持った。そういった関心が「色々つながってきて、もっと深めてみたいと思ったし、将来的にも女性のエンパワーメントに携わることができたら、と思うようになった」。そして次第に、ジェンダー論をより深く勉強できるカナダへの留学を意識し始めた。

 

「考える」ということ

  留学早々、授業を受けているとひしひしと感じたことがあったという。「習ったことを知識として覚えるだけ、というのが今までの自分の勉強スタイルだった」と振り返ったうえで、カナダでは「習った知識を応用する力や、現実社会での実践について自分で『考える』ことが重視されている」ことに気が付いた。

 日本ではインプットしたことをそのままアウトプットすればよかったが、留学中に「考えるということの大切さを知った」と語る藤田さん。留学で初めて独り暮らしを経験し、「人に頼ることのできない環境」に身を置いたこともあって、授業の枠を超えて人生や将来のことなど、「自分のことを深く考える時間ができるようになった」という。

 漫然と周りの学生と同じような道を歩んでいたために、個性が埋没し「社会に価値を提供できない」と考えてしまっていた留学前。しかし今では「明確な答えが出たわけではないけど、1段階、何かを乗り越えられた気がする」

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グループワークをしていたクラスメイトに誕生日を祝ってもらう藤田さん=右から3番目(藤田さん提供)

 

想定外の気付き

  「考える」ことを意識し始めたことで、学問においても留学前には想定していなかった「気付き」があった。ジェンダー論の専門知識を獲得することを留学の目標にしていたが、「知識をためることよりも、それをどう生かすかが大事」と思うようになった。

 さらに、アカデミックな視野も広がりを見せていた。留学前は学部で専攻している国際関係論が「女性の権利とは関係ないと思っていた」と振り返るが、カナダで『人権の歴史』という授業を受けるうちに、国際人権法に関心を抱くようになった。「漠然と持っていた自分の興味(女性の権利)と、(専攻する)国際関係論とのつながりを見いだせたことが、留学の収穫」と、充実の表情を見せた。

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 ブリティッシュコロンビア州の州議事堂前の噴水。中央にうっすら虹がかかる=ヴィクトリアにて(藤田さん提供)

―果たして、東大生は日頃から「考える」ことを実践しているだろうか。中学・高校・大学と、周りの空気に流されて漫然と生活してきた人も多いのではないだろうか。自分の人生や将来について「考える」機会は、留学に限らずたくさんある。しかし、日本というある意味「異質」な空間を出ることで初めて、藤田さんのように新たに気が付くことがあるのもまた、間違いない。