【留学】人生変えた出会い―カナダでの「挫折」の先に

 

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「自分にとって、間違いなくプラスになったと思う」―留学をこう振り返るのは、昨年秋から約1年間カナダのトロント大学に留学した、教養学部4年の布施晴香さんだ。しかし、留学生活が平坦なわけではなかった。渡航から約2か月、「何かがプツリと切れてしまった」布施さん。異国の地での挫折を乗り切った先にたどり着いた、現在地とは―

インタビュー・文 仲井成志(教養学部4年)
 

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 トロントのシンボルを前に、友人と記念撮影=ネイサン・フィリップス・スクエアにて(布施さん提供)

運命的な出会い

 留学に興味をもったのは高校生のときだ。布施さんの周りには、夏休みを利用して海外でホームステイをする友人や、1年以上の留学をする友人もいたという。「高校生の自分にそんな勇気はなかった」としつつ、「漠然と、留学に行ってみたいなと思っていた」と振り返る。そんなとき、大学に交換留学という制度があることを知った布施さんは、「大学では行こうと、その時からずっと思っていた」

 大学2年生の10月、留学の具体的なイメージが浮かばないなか、留学経験者にアドバイスをもらおうと、本部国際交流課(本郷)に先輩を紹介してもらったという。「人生が変わった」―当時のことを懐かしそうに振り返る布施さんの顔がほころぶ。留学の相談に乗ってもらったのは、当時国際関係論コース4年生で、トロント大学に留学経験のある女性だった。「ほとんど説得されたような感じ」―国際関係論に関心があった布施さんは、多文化で多様性の高いカナダの話を聞くうちに、トロントで学ぶことを決心した。

 さらにもうひとつ、そのとき心に決めたことがあった。外務省に内定していたというその先輩が「とにかくカッコよかった」といい、「公務員なんて全く考えていなかったのに、自分も外交官になりたいと思った」

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先輩から話を聞いているときにとった思い出のメモは、今でも時々読み返すという(布施さん提供)

 

「初めて」の挫折

  教養学部の国際関係論コースに進学した布施さん。「外国の国際関係論を『内』から見たい」と、留学先のトロント大学では紛争解決やカナダの外交政策を学んだ。留学生として現地に身を置くうちに、「多文化共生」をうたうカナダ社会は「移民との『共生』ではなく『共存』によって、うまく成り立っている」ことに気付かされたという。

 中学時代から「何事も真面目にコツコツやるのが自分の良いところ」だった布施さん。しかしそれだけに、勉強や語学のハードルを高くしすぎてしまい、渡航から2か月が経過したところで、「何かがプツリと切れてしまった」

 「1週間、Youtubeを観て無気力に過ごしていた」と当時の状況を振り返る。そんなとき、久しぶりに『YELL』(いきものがかり)を聴いていると「色々溢れるものがあった」という。歌詞にある「ありのままの弱さと向き合う強さをつかみ、僕ら初めて明日へと駆ける…」というフレーズに、思わず胸を打たれた。「自分は自分でいいんだ、と気づくのに2か月かかった」。真面目にコツコツ―日本では決して曲げる必要のなかったその信念が、異国の地で生活するうちに少しずつ、柔らかくなった。

 カナダで初めての挫折を経験した布施さん。しかしそれを乗り越えた先に、前向きになった自分を見つけた。「悔いの残らないように、自分が本当にやりたいことに挑戦できるようになった」

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友人との食事風景。右列手前から2番目が布施さん(布施さん提供)

留学で見える「新しい世界」

  留学を経て成長を実感しているかを尋ねると、布施さんは「これからの自分次第」だとしつつも、「間違いなくプラスになったと思う」と語る。運命の出会いを経て、外交官を目指し始めた布施さん。留学直後には国連広報センター(東京・渋谷区)で3か月半に及ぶインターンシップに参加し、外交を間近に見ることができた。イベントの広報担当として記事の執筆を任されたといい、「やりがいを感じた」と充実の表情を見せる。

 「新しい世界をみることができる」―留学を考える後輩へのメッセージをお願いすると、布施さんはこう語った。「専門分野が決まっていない学部生のうちに留学すると、先入観なく色々なことを吸収できる」

 「留学にチャレンジできる環境にいるなら、ぜひチャレンジして欲しい」―大きな学びとともに、生活面での挫折を経て精神的に成長した布施さんならではの、重みのある言葉だ。

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国連でのインターンでは、日本のニュースをまとめて在ニューヨーク職員に伝える仕事もしていたという(布施さん提供)